どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか? このコラムでは、時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
今回は、腕時計ブランドとして、そしてマニュファクチュール(自社一貫生産体制を持つメーカー)としても、あまりにも有名かつ絶大な人気を誇るロレックスのモデル名から読み取ることができる同社の“戦略”をひもとく。
ロレックスのモデル名から読み解く“凄さ”の秘密
あいかわらず入手困難の続いているロレックス。先般はその恒常的品薄状態についての、異例の公式コメントが発せられたことも、大きな話題になっている。
それにしても、こんなにも長きにわたって常に需要が供給を上回り続けているというのは、やはり驚くべきこと。ロレックスの特別さ、ロレックスの世界的な人気に、改めて感心させられてしまう。
ところで、ロレックスについて昔から思うのが、コレクションの少なさ。新しいモデルを増やさないことだ。
よくいわれるのが、ロレックスは複雑機構をつくらない、ということ。トゥールビヨンやミニッツリピーターといった超複雑機構はつくらないし、パーペチュアルカレンダーやアニュアルカレンダーはもちろん、フルカレンダー=トリプルカレンダーもつくらない(月・日・曜日を表示するトリプルカレンダーはかつてつくっていたことがある)。スプリットセコンドクロノグラフも1940年代にごく少数がつくられたが、それ以外は確認されていない。ムーンフェイズも現ラインナップにはない(「チェリーニ」にはある)。パワリザーブインジケーターの搭載もないし、ムーブメントの機構を見せるスケルトンやシースルーバック(かつての「チェリーニ プリンス」にはあった)を採用したこともない。
また、ロレックスは、いわゆる復刻モデルをつくらない、というのもよくいわれること。復刻モデルはいまの時計界の主流のひとつといってもよい。常に人気のジャンルであり、近年はますますその人気が高まっている。だがロレックスは、そんな時流に乗る素振りも見せない。
まぁ、2000年代初め頃の、猫も杓子もトゥールビヨンを発表した、“超複雑機構祭り”にも参戦しなかったのだから、別段、不思議ではないのだけれど。
しかし、初期の自動巻きの「バブルバック」や、前記のトリプルカレンダーやトリプルカレンダークロノグラフを復刻したら、大人気は間違いない。それこそ、「デイトナ」のポール・ニューマンダイアルを復刻したら、世界的な争奪戦になることは確実だ。だがロレックスはそうした復刻モデルをつくったことはないし、これからもきっとつくることはないだろう。
そしてもうひとつ、筆者がかねてから思っているのが、バリエーションをつくらないこと。これがもっとも気になることでもあるのだ。
複雑機構をつくることや復刻モデルをつくることは、どちらも相応に手間がかかることではある。トゥールビヨンやミニッツリピーターなど超複雑機構の開発は、いうまでもなく、簡単ではない。復刻モデルも、新しいケースやダイアルは当然のこと。場合によっては、まったく新しいムーブメントを新開発しなければならない。
しかしバリエーションは、さほど難しくはない。たとえば、「デイトナ」に逆回転防止ベゼルを装備したダイバーズクロノグラフとか。その逆に「サブマリーナー」にクロノグラフを搭載したモデルとか。「デイデイト」に24時間針を加えたGMTモデルとか。そういうバリエーションモデルなら、すぐにでもつくることができる。実際、そういうバリエーションモデルをラインナップするブランドが少なくないのは、よくご存じのとおりだ。
そしてデイトナのダイバーズとか、サブマリーナーのクロノグラフとか、デイデイトのGMTとか、そんなバリエーションモデルがつくられたら、まちがいなく大争奪戦が繰り広げられるだろう。だがロレックスは、つくらない。そこが昔からとても興味深いのだ。
では、ロレックス 偽物はなぜ複雑機構や、復刻モデルや、バリエーションをつくらないのか。時計界の主流だろうと、世界的大ヒット間違いなしだろうと、まったく見向きもしないのはなぜか。その大きな理由のひとつは、件の公式コメントで述べられたのと同じ。高品質を守るためだろう。
しかし筆者は、こうも思う。複雑機構や、復刻モデルや、バリエーションをつくらない、つまり徹底したシンプルさというのが、ロレックスの真の狙いなのではないか、とだ。
最近のコメント